A線アジャスターの考察
ヴァイオリンには通常、E線のみアジャスターを付ける。(分数楽器などは例外)
E線のアジャスターも基本はなるべく軽く、複雑な機構で無いものを選ぶのが良いとされていて、ゲッツやウィットナーのアジャスターなどループエンド用の小型アジャスターを付けているプロが多い。
しかし超一流ソリストでストラディヴァリなどを使っているにもかかわらず、E線とA線に大型のボールエンド用アジャスターをつけている人もいる。
セルゲイ・ハチャトゥリアンはどの時代の映像をみてもA線にアジャスターを付けている。彼は楽器の貸与を受けていてストラディヴァリだったりグァルネリだったりするのだが、その度わざわざA線にアジャスターを付けているということになる。
巨匠、ギドン・クレーメルもA線にアジャスターを付けている。彼も昔から付けていると思う。弦もあまり見ない組み合わせ。
アンネ=ゾフィ・ムターもA線アジャスター。スチール弦を使っていたような気がする。
なぜA線にアジャスターをつけるのだろうか?
仮説1:チューニングがしやすいから
これはA線をスチール弦にしている場合のみ当てはまる。ムターはおそらくそう。クレーメルももしかしたらそうかもしれない。スチール弦はペグで細かいチューニングがしずらく、アジャスターを使ったほうが良い場合もある。
しかしナイロン弦の場合ほとんどアジャスターの調整は効かない。弦の伸縮性の幅が広いため、回しても回してもあまり効かないのである。
セルゲイ・ハチャトゥリアンの場合、エヴァ・ピラッツィを常に使っているので、チューニングのために付けているというのは考えにくい。(もしかしたら微調整程度には使っているかもしれない)
仮説2:音質の変化を狙っている
基本的に、ヴァイオリンは重いパーツを使うほど柔らかい音になりやすい。
A線にアジャスターを付けた上でA線を張ると、テールピースにダイレクトに音が伝達しないのも合わさり、良く言えば柔らかく、悪く言えばこもる、くすむ感じの音色になる。
私も一瞬実験と思ってA線をドミナントで、ウィットナーのボールエンド用アジャスターを付けてみたことがある。思ったとおり柔らかい…というよりデッドなこもった音になる。
普通に考えたらA線は高音域が多いので、ハイがあるきらびやかな音のほうが好まれるので、基本的にはやはりアジャスターを付けないほうが無難だと思われる。
しかし、セルゲイ・ハチャトゥリアンの場合彼はかなり強く弾くし、エヴァ・ピラッツィだし、音の傾向が全体的にまろやかな感じはするし、そういう音の方向性が好みでA線にアジャスターを付けているということももしかしたらあるかもしれない。
仮説3:特に何も考えていない
多くの有名ソリストは若い頃から世界的にデビューを果たしていたり、神童、天才と呼ばれて子供の頃から演奏を盛んに行っていることが多い。
そういうソリストは子供の頃からそうだったから特に何も考えずそのままのセッティングで楽器を弾いていることが多いし、あまり楽器をいじくり回すイメージがしにくい。そもそも銘器を貸与されてる場合弄ったらダメそうだし、工房などでいつもの通りのセッティングで調整してもらっているのかもしれない。
アジャスターについても子供の頃から付けてたし…ということも結構ありえると思うのだがどうだろうか。
まとめ
上に上げた人以外にも、ソリストや有名プロでA線にアジャスターを付けている人は結構多い。オーケストラの人ならもっと多いかもしれない。
読者の方でこれを読んでA線アジャスターを付けて見ようかと思う人がいるかもしれないが、基本的にはやめておいた方がいいと思う。
スチール弦でペグだと全然合わないという場合ならともかく、やはりヴァイオリンの自然な音を殺す傾向の調整になるので、鳴らなくなるし、楽器を傷つける危険性も上がるし、コストはかかるし(微々たるものだが)基本的には避けたほうがベター。
あと上に書いたのはすべてフルサイズ、大人用サイズのヴァイオリンの話なので、子供用分数ヴァイオリンは全く別の話。分数はアジャスターを付けてもとりあえず問題ありません。
A線アジャスターについての考察でした。